川瀬巴水好きにおすすめ!衝撃的な美しさと懐かしさを描いた新版画家10選
ここ最近、新版画という浮世絵のようで浮世絵じゃない木版画の注目度が高まってきています。スティーブ・ジョブズが川瀬巴水(かわせはすい)という新版画家の作品を収集していたことも、その一因のようです。
私もアメリカの美術館で巴水の作品を見て、浮世絵と洋画の中間のような不思議なかんじに惹かれて、日本に帰ってきてから色々調べまくりました。
新版画とは何なのかということについて、以下の記事の中で簡単に触れていますが、一言で言うと明治から昭和にかけて制作された木版画のことで、絵師、彫師、刷師の分業によって作られたもののことです。原画を描いた絵師だけでなく、彫師、刷師も卓越した職人技を持っていたからこそ生み出された芸術だということです。
新版画家の中でも川瀬巴水は最も有名で出回っている作品数も多く、昨日の新聞にも日本橋の丸善での展覧会の広告が載っていました。
渡邊木版美術画舗(版元のイベント情報ページ)
丸善日本橋で新版画の川瀬巴水展、初期の摺画等 | 銀座新聞ニュース(こちらのサイトでは新版画についても詳しく解説されています)
また、静岡市の駿府博物館では2015年6月7日まで川瀬巴水展が開催中です。
生誕一三〇年 特別展「川瀬巴水展-郷愁の日本風景」 - 駿府博物館 - 公益財団法人 静岡新聞・静岡放送文化福祉事業団
さて、以上に挙げたように関連イベントがたくさん開かれている川瀬巴水の他にも、すごい新版画家はたくさんいます。
そこで独断と偏見ですごいと思った新版画家を10人ピックアップしてみました。
思わず絵の中に入って旅したくなる、すごい新版画家10選
石渡江逸(いしわた こういつ)
長野県渋温泉
床場
夜の浅草
石渡江逸(明30-昭62)は、川瀬巴水に師事していたそうです。ウィキペディアによると、
江逸は、東京の各地を自ら歩き回ってスケッチを行い、それらを元に、何れも名所とは程遠い、極めて日常的な光景を版画化していった。
ということで、確かに光の感じと相まって落ち着いた雰囲気を感じます。
小原古邨(おはら こそん)
枯れ蓮に背黒鶺鴒
原題不明
小原古邨(明10-昭20)はこのブログのGIFアニメシリーズでも度々取り上げさせていただいています。
海外では巴水と並ぶ人気で作品も多数残っています。花鳥画の数が非常に多く、花や葉の美しさもさることながら鳥の顔が愛らしく、見ていて飽きないです。
海外では画集が発売されるなど、日本国内よりも人気が高いようです。
Crows, Cranes & Camellias: The Natural World of Ohara Koson 1877-1945 (英語) ハードカバー
笠松紫浪(かさまつ しろう)
廊下
信州白骨温泉
東京タワー
笠松紫浪(明31-平成3)は現代的な構造物を描いた作品がいくつかあって、それがとても面白いです。
テレビ東京の「開運なんでも鑑定団」に作品が登場したことがあったようで、サイトの鑑定士総評のところには
現在、新版画というジャンルは「浮世絵のルネッサンス」などと言われ評判になっており、笠松の作品もこれからますます人気が上がっていくと思われる
と書かれていました。
庄田耕峯(しょうだ こうほう)
原題不明
原題不明
庄田耕峯(明10-大13)は48歳で亡くなっていますが、絵を描いていたのは30歳までのようです。現在確認できる作品数が少なく情報もあまりないので絵の題については正確には分かりませんでした。また、「耕峯」ではなく「耕峰」と表記されている文献もありました。この記事ではウィキペディアが「庄田耕峯」と表記していることなどから、とりあえず「耕峯」と表記させていただきます。
耕峯の絵は月夜の場面がほとんどで、すべての作品に共通して静けさを感じます。
高橋松亭(たかはし しょうてい)
石雪花 徳持
浅草観音堂
石山之月
高橋松亭(明4-昭20) は浅草出身で、新版画の先魁とも言える人です。冒頭の川瀬巴水展のリンク先の渡邊木版美術画舗の創業者、渡邊庄三郎の元で出版した木版画が外国人に人気だったことから、新版画が生まれたようです。(高橋松亭 - Wikipediaより)
このブログでも松亭の「関宿」という風景画をGIFアニメにしたことがあります。
松亭は日本国内でも有名で人気も高く、画集なども出版されています。
こころにしみるなつかしい日本の風景―近代の浮世絵師・高橋松亭の世界
また、海外での人気も高さももちろんで、Sotei.comなるサイトもあります。
土屋光逸(つちや こういつ)
三井寺晩鐘
夏の月宮島
銀座の雨
土屋光逸(明3-昭24)の作品の多くは建物や船が描かれた風景画で、非常に細かいところまで描写されているので、この時代にカラー写真があったらこんな風に撮れていたかもなぁと想像してしまいます。
横内銀之助(よこうち ぎんのすけ)
原題不明
京都清水寺紅葉
横内銀之助(明3-昭17)については資料も版画も少なく、確認できるものは以下のサイトに掲載されているものだけです。
http://www.hanga.com/search.cfm
このブログでGIFアニメにしたときも、資料が出てこず、絵の題も分かりませんでした。このときは絵の下にくずし字で題が書かれていたので、木簡字典・電子くずし字字典 [共通検索システム]を使って解読してみました。
今回も題名の解読に挑戦しようと思いましたが、1枚目の富士山の絵は解像度の高い写真が無く、絵の下に書かれている文字を読むことができませんでした。海外では Mt. Fuji from Gotenba と呼ばれているようです。
2枚目は、Autumn at Kiyomizu Temple, Kyotoとなっていましたが、こちらは解像度の高い写真があったため、くずし字を調べてみました。
おそらく、「京都清水寺紅葉」ではないかと思われます。
横内銀之助の作品は数こそ少ないですが、ふわりと霞のかかったような、いかにも日本らしい優しい風合いを感じます。
吉田遠志(よしだ とおし)
釣鐘堂(平林寺)
黒ヒョウ Black panther
吉田遠志(明44-平7)は、次にご紹介する吉田博の息子です。遠志はよくある風景画や花鳥画だけでなく、野生動物の絵も多く描いており、動物絵本シリーズも出版しています。その躍動感あふれる絵は、ほんとうに木版画なのだろうかと目を疑いたくなります。
また、インターナショナル版画アカデミーを設立するなど、木版画の普及に尽力されていたそうです。
吉田博(よしだ ひろし)
ウダイプールの城
象
料理や之夜
吉田博(明9-昭25)は息子の吉田遠志と共に海外に制作旅行に出かけ、海外の風景も多く描いています。日本の技法を使って外国を描いた木版画は衝撃的なまでの美しさです。初めて吉田博の絵を見たときは、ほんとうに「なんだこれは!」と思いました。
アメリカのBuzzFeedという有名なサイトでも記事にされています。
また、熱海市のMOA美術館で、吉田博の展覧会が2015年5月17日まで開かれています。
画集も出版されています。
吉田博 全木版画集
Noel NOUET(ノエル・ヌエット)
ノエル・ヌエット(明18-昭44)は、ブルターニュ出身のフランス人で、日本でフランス語教師をしながら詩人や画家としても活動していたそうです。
土井版画店というところから木版画を出版したそうですが、こちらの版元は川瀬巴水や土屋光逸の作品も扱っています。
こうして木版画として見てみると、昔の東京はすごくモダンなところだったんだな、と思います。
版画を購入する
すごい新版画を見ていて、だんだん欲しくなってきた方もいらっしゃると思います。
土井版画のサイトにも注意書きがありましたが、版元以外のところから出ている版画は印が無く、偽物として扱われています。
一方、版元はオリジナルの版木を使って刷っていて、印も押されています。
渡邊木版美術画舗のサイトで詳しく解説されていますが、オリジナルの版木を使ったものでも一番最初に刷ったものは「初刷り」、あとから刷り増ししたものを「後刷り」と呼んでいるそうです。
初刷りのものはとんでもない値がつくようですが、いくつか版元のサイトを回って調べたところ、現在販売されている後刷りのものは1〜3万円程度で購入できるようです。
それぞれ画家の名前をネットで検索すると、ウィキペディアなどにどこの版元から出版されたかなどが書かれています。その版元のサイトから問い合わせるのが初心者でも一番安心して購入できる方法なのではないかと思います。
また、冒頭でご紹介したように、デパートなどでは人気の新版画家の展示販売会も定期的に行われています。
版画として刷られたものでは無いですが、気軽に壁に飾るならポスターという手もあります。オールポスターズというオンラインのポスターショップなどでは川瀬巴水や小原古邨(祥邨)の作品が何点かあります。
新版画について検索していたところ、FREESTYLE POP-ART SERISという漫画家のイラストを版画にして販売している会社を見つけました。
江口寿史、谷口ジロー、諸星大二郎、寺田克也、松本大洋の原画を使って、ベテランの刷師が制作したものが購入できます。自分は鉄コン筋クリートが大好きなので、今ものすごく欲しくなってます……。
こちらの刷師の方は版画のワークショップを開いておられます。木版画ではなく銅版画とリトグラフですが、版画の作り方が知りたい方は参加してみるのも楽しそうです。
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