「そんなことで」と言わないで-ブラック企業とセカンドアビューズ

最近モラルハラスメントという言葉をテレビ欄でよく見かけるようになりました。例の離婚問題については、ほぼ何も知らないのですが、モラルハラスメントにからんで「セカンドアビューズ」という言葉があることを知りました。

セカンドアビューズとは、直訳では二次被害という意味だそうですが、モラルハラスメントの被害者に対して例えば

「あなたも悪いところがあったんじゃないの」

といった言葉をかけ、被害者を精神的に傷つけるという問題に対して使われているようです。

このブログでは自分の経験から、ブラック企業についての記事を多く書いてきました。

モラルハラスメントと会社内でのパワーハラスメント、言葉は違えど、加害者また被害者の精神構造の面で似た部分が多く、よってブラック企業に勤務している人に対してもセカンドアビューズは起こり得るのではないかと思いました。

 

ブラック企業の社員の葛藤

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明らかにひどいブラック企業なのに辞められないというとき、ブラック企業の社員は

「このぐらいで辞めるなんて自分はたるんでるんじゃないか」

と思う人も多いと思います。それはある意味で洗脳されている状態にあると言えると思います。私もブラック企業に勤めているときは、そう思っていました。(零細ブラック企業の社長による、洗脳の恐怖ー激怒編

 

もし洗脳が解けて、この会社は異常だと気付けたとしても

「これで辞めたらゆとりとか言われるから辞められない」

といったようなことを思うかもしれません。また、

「自分が希望して入った会社だから辞めるわけにはいかない」

「親に申し訳ないから辞められない」

という考え方もあるかもしれません。

そこから抜け出す方法は人によって様々なケースがあると思います。私の場合については過去に取り上げたので良かったら読んでみてください。

ブラック企業の洗脳を自覚した「口癖」事件…の巻。

むけいかくなひとにあらわれた、ブラック企業ではたらくことの意外な弊害…の巻。

 

ブラック企業について愚痴をこぼすということ

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 ブラック企業に勤務している人が

「今、自分は無理をしているんだな」

と自覚できたとき、周りの人に愚痴をこぼすかもしれません。

それは決して、心が弱くなったということではなく、虐げられているのにニコニコして働いているという気味の悪い洗脳状態から抜け出し始めたということであり、喜ぶべき第一歩です。

特に、周りに心配をかけたくないという思いが強い人ほど必死で、辛さや体調の悪さを悟られないようにしていたはずです。ですから、こういう性格の人が会社の愚痴を言ってきたら、それはもうかなり追いつめられているということかもしれません。

また、自分の理想が高い真面目な人の場合、他人にも能力が高いと思われたくて、苦しい素振りを見せないこともあるかもしれません。そういう人が相談を持ちかけてきたら、あなたは素の自分を見せられる数少ない人間の一人と思われていることになります。

 

ですから、もしブラック企業について相談を受けたら「面倒くさいな」と思わずに、できるだけ長い時間、話を聞いてあげて欲しいと思います。

 

セカンドアビューズで傷つく心理

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私が昔、ブラック企業について相談したとき、何もアドバイスされなくても、ただ話を聞いてくれるだけでとても嬉しいと思ったのを覚えています。

逆に、何かアドバイスしなきゃと焦ると「セカンドアビューズ」に繋がる危険があるとおもいます。

例えば、

「この前飲み会の帰り電車止まっちゃってさー、家着いたの1時過ぎだよ」

と誰かに言ったら

「そんなの飲み会に言ったのが悪いんじゃん」

と返されたとしたら、ちょっとがっかりですよね。または、

「えー?1時過ぎるとか当たり前でしょ。こっちは毎日終電だよ」

と言われたら、こいつに言うんじゃなかったって思いますよね。

日常のくだらない会話でも、こういう答えが返ってきたら、精神的に元気な人でも傷つくのに、ブラック企業でズタボロの人やモラハラの被害者については何をか言わんや、です。

 

他人にとっては実感が無く、小さなことに思える相談でも、当人が人間らしく生きられていないと思っているなら、適当にいなさないであげて欲しいと思います。

前にも書きましたが、自分を押し殺さずに自由に生きていけることは、人間の当然の権利です。最近モラハラという言葉が一般的に使われるようになって、その権利を取り戻すことについて社会的認識が高まれば良いなと思います。

 

セカンドアビューズを避ける

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紛争地帯に住んでいる知り合いがいたとして

「近くで爆撃があった」

というメールが届いたら

「そんなの普通じゃない?日本だって70年前はそうだったよ」

とは言わないと思います。

また、難民として逃げてきた人に

「そんな程度で逃げてきたの」

とか、

「そんなとこに住んでたのが悪いんじゃないの」

と言う人がいたら、とんでもない悪い奴だな、と感じると思います。

逆に、

「すぐ戻れるよ」

など、何も知らないのに下手に元気づけるような言葉もかけにくいのではないでしょうか。

「怖かったろうね、よく逃げてきたね」

と言うのが精一杯だと思います。

ブラック企業から抜け出そうとしている人、抜け出せた人も同じで

「そんなことで……」「そんなとこに入ったのが悪い」

と言われると深く傷つきます。

紛争地帯から逃げるだけでも危険なのと同じように、ブラック企業を辞める意思を伝えたら、酷い場合は暴力を振るわれるかもしれません。そんな状況から一人で抜け出してこられたことを、まずは認めてあげて欲しいと思います。

 

私も、ブラック企業を辞めたとき、親に電話で報告しました。

「なんだ、せっかく就職したのに」

と言われるかと思いきや、

「いいじゃない、いいじゃない、大変だったね」

と言われて、やっと今までどれだけ気を張っていたのかが分かり、ブラック企業に入社して以来初めて涙が出ました。

 

 

ブラック企業に勤め続けるというのは、会社からはもちろん、自分でも自分を苦しめる行為です。

本当は、自分の感情や状況を自分で処理できるのが、自立した人間と言えるのかもしれませんが、それはなかなか難しいことです。

だからせめて周りの人は、話を聞いて、うなづいてあげて欲しいと思うのです。それがブラック企業を辞める決断のきっかけとなったり、不必要に精神的ダメージを引きずるのを避ける助けとなることは、自分の経験からしても、大いにあり得ることだと思います。

 

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